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Showing posts from July, 2023

窓ぎわのトットちゃん

 私は古典や一般書、児童書の名著、ベストセラーを集めて病院内私立「図書箱」を作っています。最近、同時期にある作品が職員や患者さん複数に借りられたので、その本のことを書きたいと思いました。それは、黒柳徹子さんの自伝 「窓ぎわのトットちゃん」 (講談社青い鳥文庫)です。 小学校での体験を描いた作品にふさわしく、二人の対話のような形で書いていきます。 「窓ぎわのトットちゃん」面白かった。(2023年の)冬にアニメ映画になるみたいですね。 ≫ それは良かった。今年映画になるなんて、ちょっとした共時性(シンクロニシティ)かも。黒柳徹子さんが通っていたユニークな小学校「トモエ学園」での出来事を描いたノンフィクション、なんだけど、実際の手触りは限りなくファンタジーの世界だと思います。 校長先生の言う「君は、ほんとうはいい子なんだよ」(P243)って、確かにファンタジーの世界の魔法の呪文みたいですね。 初めてトモエ学園に行った日、「なんでも話してごらん」と言ってトットちゃんの話を4時間も聴いた「校長先生」(P29)、いいなあ。普通なら、話を途中でやめさせそうだけど、彼は全く気にせず最後まで聴いてくれて。 ≫ 最初から校長先生もトットちゃんを大好きになったって。子どもの話を聴くべきだから聴くのではなく、対等の友人として興味深く聴いていたみたいだね。 この対応が、トットちゃんが校長先生に心を開くきっかけになったと思います。トットちゃんは周りから冷たい目で見られたり疎外感を感じる事もあったそうだから。 ≫ 決まったルールで管理された小学校では、トモエ学園のように自由にふるまえないし、そもそも校長先生が対等に接してくれるなんてありえないものね。校長の信念はシンプルに、「どんな子も、生まれたときは、いい性質を持っている。それが大きくなる間に、いろいろな、まわりの環境とか、大人の影響でスポイルされてしまう。だから、早く、この『いい性質』を見つけて、それをのばしていき、個性ある人間にしていこう」(P331)というもの。 トットちゃんは、普通の大人からみたら厄介で迷惑な子どもだけど、トモエ学園の生徒や校長先生、トットちゃんの両親は他の人と違った見方だから、いい子だと愛されていたんだと思います。子どもは大人よりも周囲の気持ちを敏感に察するのかもしれない。自分も気をつけないと。 ≫ その気持ちが大切だ

栗本薫について、過去に書いた文章の転載

「永遠の子どもであること」は文学、芸術の主要なテーマの一つだと思います。しかしアーティストが、自分自身と仲間達の私的な共同幻想のみを自己の拠り所としたら? 社会全体の共同幻想、というか人としての最低のルールを無視する、いや理解さえしていない、しようともしないとしたらどうでしょうか?  ライトノベルの始祖といわれることも多いベストセラー作家、栗本薫(評論の名義は中島梓)の本を子どもの頃よく読んでいました。 中島梓『コミュニケーション不全症候群』P322 ちくま文庫 (時代の圧倒的な流れに逆らうことはできない、という文脈に続いて) 「だが、自分自身のほうは確実に、変わることが可能である。-それも自分の力によってだ。そのことで、時代と歴史を変えることは出来なくても、時代と歴史の変貌からの圧力に対して抵抗力を保持することは可能だろう。(中略)我々は自分自身であることによってだけ、歴史や時代や社会の強制から自由であれる(中略)。歴史にまきこまれることは避けられないが、歴史に変容させられる必然性はない。時代のなかにあっても、自分自身であり続ける自由をもつこと-ないしそのための努力をすることはできる。(中略) 我々はそのためにまず、自分の置かれている環境がどのようなもので、自分が知らず知らずにかけられている時代と社会からの圧力はどのような種類のものか、そのために自分がどのように自分でなくなっているのか、よく知らなくてはいけない。」 1991年の著書『コミュニケーション不全症候群』において、彼女は、それをいみじくも「大人のずる賢さとエゴイズムを身につけた無責任な子ども」と表現しています。 それは精神医学の見地から云えば、自閉症スペクトラムの素因があったうえで、他人の意図を推し量れないまま、わがままに育っていった人類と言い換えることができます。そしてこれは、後に彼女が生み出したタナトス生命体と呼ばれるモンスターに似ています。 タナトス生命体は、彼女の長編伝奇小説 『魔界水滸伝』 20巻に登場します。本作は永井豪『デビルマン』や諸星大二郎『妖怪ハンター』シリーズのオマージュであり、人間、先住者たる妖怪、そして古きものども(クトゥルー神)の3つ巴の戦いが描かれます。 クトゥルー神は本家 ラブクラフト のような人智を超えた存在ではありません。代わりに絶対に理解不可能な存在として登場するのが