Skip to main content

Posts

Showing posts from February, 2024

STOP MAKING SENSE

  最近見聞きしたものを中心に、精神科に関わる話をつれづれにまとめています。今回から、2人の精神科医の会話という設定で、明確にフィクションにしています。2人は私の分身ではありますが、登場人物の意見ではなく、創作全体を通して私の意見を説明しており、基本的にフィクションですが、後半の「バッチ事件」は、本当に私が体験したことになります。 英国ブライトン在住の保育士ライター、 ブレイディみかこはエッセイ にこう書いている。彼女の住む公営住宅は、だだっぴろい庭がついていて、大小さまざまな動物が棲みついている。人間も動物も共生する。 「まるでジャングルみたいで、キツネまで棲みついて困っていた。あるとき、隣家の女性が鬱で具合が悪くて、「世界はクソだ」、「もう死にたい」ってつぶやきだしたそうです。その女性がきまぐれで餌を与え始めたら、キツネの親子は隣家にお引越ししていったとか。」 精神科医局の雑然と本が積み重なったデスクで、西山大介は話す。最近読んだ話だ。少し離れたデスクでコーヒーを飲んでいた遠藤凪は、それで女性の鬱が少しでも改善したら万々歳じゃないですか、と付け足す。 「なぎ先生、そう。まあ、よくなったかどうかは書かれてないけど、きっとよくなったんでしょうね。」 「何がどう転んで、どうなるか、なんてわからないんでしょうね。ブレイディさんのブログ、私も読んでましたけど、キリストが十字架に架けられた理由は、ノーフューチャーだって。ジョン・ライドンもキリストも、世の中理不尽なことばかりだって伝えてるんだって。元も子もないですよね。それが福音だなんて。」 遠藤凪は西山より10歳近く下の27歳の女性で、精神科の知識より、兄の影響で詳しいロックの知識のほうがよほど深いと自分でも思っている。 「 ノーフューチャーでなぜ感動するかはAIではわからない。 ノーフューチャーが福音、つまりグッドニュースだから、感動する。理屈ではなく人間の感情の話。」 一息ついて西山大介は続ける。 「近い話を思い出したんですが、隆慶一郎の 『一無庵風流記』 という時代小説は知らないですよね? 『北斗の拳』と同じ作者が漫画も描いていて」 「『北斗の拳』は知ってます。フライング・ロータスや サンダー・キャット がよく語っていました。」 「海外のビート・ミュージックから日本の漫画を知るなんて。『一無庵風流記』の主人公、慶次郎